23.格下げ
 
 
 
 国王は、森羅を椅子に座らせると自分は斜め向かいの席に腰を下ろ
 
し、腕を組んだまま何を言うでもなく森羅のことを見つめていた。
 
広い食堂に護衛らしき人やメイドらしき人など、結構たくさんの人が
 
いるのだが、食事をする為に座っているのは国王と森羅だけのようだ。
 
 
見当たらないジールとフランが、どこにいるのか確かめようと後ろを
 
振り返ると、わたしの席の背後に居たが、手も届かない位の距離にい
 
るので話しかけることもできない。
 
せっかく二人にも慣れた所だったのに…さっきの部屋の方が良かった
 
な…等と考えていたら、国王が話しかけて来た。
 
 
「聖者殿……何か緊張しているようだが、捕って喰おうなどと………
 
……思っておらぬゆえ、安心されよ…。」
 
 
( 今の、『 喰おうなどと 』 と、『 思っておらぬ 』の言葉の “ ()
 
が、すごく長かったよな? あっ、今、クスリって感じで笑ったぞ! お
 
ちょくってるのか、この女王…いや、さっきは鳥肌ものだったし、も
 
う、おまえは女王でも何でも無い! 格下げだー! なー、女王はやめ
 
にしたから今度は、“ 髭オカマ ”なんてどうだー? それか、ニュー
 
ハーフって感じじゃないから、“ オールドハーフ ”は? いや、これ
 
じゃ手緩い、やっぱり髭オカマの方がいいよなー? な? な?)
 
〔――僕との話は後にして、よく相手の話を聞くんだ! それに疑問点
 
も、ちゃんと質問するように!!〕
 
(う……うん…。)
 
 
相方が話に乗ってくれず、つまらないし、この微妙な雰囲気が嫌で椅
 
子に腰掛けもぞもぞしていたら、しばらくして国王がまた口を開いた。
 
 
「して、ジールとフランとは……もう打ち解け……既に互いの名を呼
 
び合う仲に…なったらしいが……」
 
 
(えっ、何でもう知ってるんだ? ジールやフランと話をする時間な
 
んて無かったよな…? なぁ、いつの間に二人に聞いたんだろう?)
 
〔―― ……〕
 
(無視かよぉー!!)
 
 
国王は、『 名を呼び合う仲になったらしいが…… 』の後には何も言わ
 
ず、こちらを見つめている。
 
普通ならその後に、「良かったなぁー! 」とか、「思いのほか、口が達
 
のぉー!」とか何とか、続くんじゃないのか?
 
じっと見つめられて居心地悪いし、相方は無視だし、わたしは一体ど
 
う返事すりゃいいんだ…と、頭を悩ませていたらジールが助け舟を出
 
すように間(あいだ)に入ってくれ、ほっと胸を撫で下ろした。
 
 
「はい、国王陛下、聖者さまは、わたくし共に、“ シンラさま ”では
 
なく敬称無しの“ シンラ ”と呼ぶように仰いまして……、遠慮申し
 
上げたのですがそれ以外は駄目だと仰せ遣わされまして、 “ シンラ ”
 
とお呼びさせて頂いております。」
 
「ほー、“ シンラ ” ………と、な………」
 
 
(何なんだ! この勿体ぶった話し方……身体中が痒くなりそうだ!
 
なぁ?)
 
〔――……〕
 
(また無視かよぉー、ちょっとくらい、返事しろよ!)
 
〔――集中しろっ!! 国王に礼を欠くな! 話を聞け!!!)
 
 
 
   *** ***
 
 
国王は、この“ マの悪い会話 ”、会話どころかまだ何ひとつ森羅の
 
方からは受け答えをしていないと言うのに、涼しい顔をして、口元に
 
は笑みを絶やさず、にこやかに森羅の一挙一動を見つめていた。
 
しかし、森羅は、相方に叱られ仕方無く国王を見たものの、集中した
 
って会話の応酬にもなっていないし、こんな途切れ途切れの一言二言、
 
上の空でも構うものか…それよりもっと大事な問題、早く食べるもの
 
を持って来いっ!!!と、おかんむりで、優しく微笑む国王に笑みを
 
返すでもなく、口を真一文字に結んで不貞腐れていた。
 
 
何ともぎこちない空気が漂っているのに気がついているのは、ジール
 
と国王のすぐ横に立っている執事のヴァローズだけだった。
 
そのヴァローズが、森羅の様子を見かねて、「陛下、聖者さまはまだお
 
子様です。退屈されて来たご様子ですので、もう…と耳打ちしたのだ
 
が、国王は、「わかっておる、」と答えはしたが、その後もしばらく沈
 
黙を続けたまま森羅を見つめていた。
 
それから少ししてから、相変わらず間延びしたゆったりとした言い方
 
で、「では、シンラ…………、わたしのことも“ ダーナ ”と呼ぶよう
 
に……、」と言い、森羅の返答を気にすることなく横で気を揉んでいた
 
ヴァローズに手をあげて見せ、始めよと合図を送った。
 
 
 
その後は、控えていたメイドや給仕人たちが一斉に動き出したのだが、
 
森羅は、先程の国王の言った一言など何も聞いておらず、頭の中では、
 
お茶碗とお箸を持ちリズムにのって、『腹減った!』チン♪『腹減っ
 
た!』チン♪ と茶碗叩きの空腹アピールを繰り返していたのだった。
 
 



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