24.晩餐@
次々に運ばれて来る料理、この場合ウェイター、ウェイトレスと呼
ぶのかはわからないが、二十人位の料理の運び屋たちが一斉に三十種
類以上の料理を持ってきて、順序よく入れ替わりそれをテーブルの上
に並べていった。
ざっと見た所、やはり和食ではなかった。
お米ではなく、黒っぽいパンと白いパンの2種類、“何かの肉”を焼い
たと思(おぼ)しき焦げ茶色の塊、同じく“何かの肉”らしきものがタコ糸の
ようなもので縛られ、とろりとしたソースに浸かった赤茶色の塊、…
…色や大きさには多少の違いはあるが、みな“何かの肉”らしきもの
の塊、塊、……塊ばかりが半数を占め、後は見た目サラダっぽい野菜
が盛られたものが数種類に卵色、オレンジ色、それから泥水色のスー
プ、あと一つは、蓋がしてあるので中身はわからないが、大量の料理
を一度に作る業務用よりも一回りは大きい銀色の深鍋がテーブル脇の
台に置かれている。
この非常にでかい蓋付き深鍋は、最初からテーブルの脇の台に載せて
あったので、 肉の一塊になる以前の何かが、一頭分を丸ごと煮込まれ
たものじゃないかと予想しつつ、早く食べたい…これで全部の料理が
出揃ったのでは? でも、ここにある“何かの肉の塊”切るのが大変そ
うだ……この国のマナーもわからないし……、等と考えながら生唾も
のの状態を耐えていた。
*** ***
一応ナイフとフォーク、それからスプーンはこの国でも形が同じだ
ったのですぐにわかったが、自分で料理を取るのか、それとも誰かが
給仕してくれるのか、わからなかったので、国王を盗み見たら目が合
ってしまった、と言うか、テーブルに頬杖をつきながらずっとこっち
を見ているようだ。
何なんだ? 視線を無理やり逸らして一度後ろを振り返り、そして何
気無さを装いもう一度国王を見ると、さっきのまま同じ体勢で見てい
た、わたしを…。
寝起きでそのままだったから、髪がくしゃくしゃなのかも…?
天パだからドライヤーで寝かし付けないと所々コイルのように飛び出
てしまうのだ。
また、さり気なく髪を手で押さえつけ、それから今度は大きな銀色の
蓋付き深鍋を見て、さらに手元にある空っぽの皿を数えてから、なる
べく顔は動かさないように気をつけ、目だけでちらりと国王を見たが、
同じ体勢だった。
テーブルに頬杖をつきながら、今もずっとこっちに顔を向けているの
が目に入り、思わず顔に何か付いているのか気になってうろたえてし
まったのだが、国王は、目を逸らそうともせず笑みを湛(たた)えながら横の
男に何かを言った。
森羅は、『あの娘の顔を見てみろ! 鼻くそがついているぞ!!』 とか
何とか言って、こそこそ二人で笑っているんじゃないかと思い、思わ
ず猫のように手の甲で顔を目の回りや鼻の下を拭い、平静を装いなが
ら心は羞恥と怒りでいっぱいになったのだった。
*** ***
「ヴァローズ、おまえは聖者が男に見えるか? それとも女に見える
か? 人間に見えるか?」
「勿論、人間の男……と言いますか、男の子供に見えますが……」
「そうか、そうだな……聖者の伝承にもあるからな……、」
ヴァローズは、それはどのような意味なのか聞きたかったが、日頃か
ら陛下は、あまり胸の内を曝け出す御仁ではないし、とび抜けた頭脳
を持ち、『 シュウダシャールに黒の御使い在り 』と近隣ばかりか、世
界にその名を知らしめたお方……時が来れば我らにもお話下さるであ
ろうと、敢えて尋ねるのは控えた。
それからもしばらくの間、国王は飽きることなく森羅を見つめていた
が、料理も出揃い準備も整ったのを見て、ヴァローズに 「 道化を! 」
と告げた。