30.聖者であるものか!
  
 
 フランから『イリオーク』の詞の説明を受けたが、あまりにも現実
 
離れしていて、すんなりと受け入れることは難しかった。
 
神は全知全能の存在であり、信仰の対象として揺るがないものだと言
 
うのは理解できるが、それが一体自分の召喚されたことと何の関係が
 
あるのか…?
 
フランの説明を聞いても実際はよくわからず、異世界に居ることもそ
 
こで人間以外の種族が存在していることも全てが夢のまた夢……今、
 
目や耳にしたことや自分自身も、幻影……全部、幻なのかもしれない、
 
とぼんやり考えてい所、国王ダーナが気遣うように、声をかけてきた。
 
 
「シンラ、疲れたようだが大丈夫か? 異世界から召喚された貴方に
 
はすぐには理解できないことかもしれぬな。それに、貴方はまだ……
 
子供…、無理をさせるつもりも無いので、婚姻の相手にしてもゆっく
 
り選ぶといい。シュウダシャール国には未婚の美しい女子(おなご)がたくさん
 
いるから……今度、花嫁候補のお披露目を兼ねた舞踏会を開くつもり
 
だ。その時、わたしの言葉が真(まこと)か、自分の目で確かめるとよい! 」
 
 
(子供・婚姻・花嫁・女子……意味わかるか?)
 
〔――あぁ、この人たち、君のことでもあり僕でもあるけど、子供、
 
それも男の子で、さっきフランが言ったイリオークの聖者だと思って
 
いるみたいだな、〕
 
(えぇーーー!!! 人違いもいいとこだ、聖者なんかじゃ無いし、
 
子供でも無い、ましてや男だなんて、こいつらどこに目をつけてるん
 
だ!? 絶対、みんな視力0.0000001くらいだぞ! ったく、
 
信じられん!!!)
 
〔――いや、公平に見て、目は悪くはないと思うよ…実際、僕が一緒
 
に居るんだから、〕
 
(何言ってんだ!? わたしが女なら君も女に決まってるんじゃない
 
か! それに今さら、ここへ来て男だとー? 冗談じゃないっ!)
 
〔――いや、僕は男だ、君に言っても仕方ないし、その必要性も無か
 
ったから黙ってたけど…〕
 
(わからん奴だなぁ…じゃ、何かー、さっきはダーナのことをそう思
 
ったけど、わたしって両性具有者なのか?)
 
〔――それとは違うかも……、具有してないからな、〕
 
(えっ、具有?……あっ、“ちんぶらりんこ”か!)
 
〔――何が、“……ぶらりんこ”だ!…まったく……そもそも、品も色
 
気も欠片も無い、勿論、胸も無いから女に見えないし、馬鹿なことば
 
かり考えてるから成長してない子供と一緒にされるんだー!!少しは、
 
頭を働かせて、これからのことをもっと真剣に考えないと結婚、それ
 
も女同士の結婚だぞー、できるのか? ここから帰る方法もわからない
 
し、逃げ出すにしたって右も左もわからない、この最悪、最低な状況
 
がわかってるのかー?! 何度も同じことを言わせるなよ! 君がちゃ
 
んとしないとこの危機的状況を打破できないんだぞ!!〕
 
(はぁー、…お疲れ、久しぶりによく喋ったなー? じゃぁ、そのも
 
のずばり、聖者なんかじゃ無いってこの人たちに言って返して貰うっ
 
てのは?)
 
〔――駄目だ! 根拠は無いが、信仰心っていうのは彼らの生き方の根
 
底にあるものだ…信じきってる人たちに何を言っても“馬の耳に念仏”
 
だ!〕
 
(そうか…じゃぁ、本物の聖者を探すっていうのはどうかな?)
 
〔――それも駄目だ、本物の聖者が現れたりして偽者だとバレてみろ、
 
親切ご丁寧に返して貰えると思うかー?〕
 
(うん、思うけど……。)
 
〔――聖者を騙った罪で、ぶすっのチョンだ!〕
 
(刺されて、ギロチンか…、)
 
〔――だから、何とか帰る方法を見つけるまで、もし万が一帰れない
 
にしても、ここから抜け出し自立できるまでの知識や先立つものを蓄
 
え、できれば、事情を話して助けてくれそうな味方を作るんだ。〕
 
(そうだな……でも、わたしに、子供のそれも少年の振りなんてでき
 
るかな?)
 
〔――少年の方は今でも充分通用してるから大丈夫だ…問題は“聖者”
 
の“ふり”の方だ。 もう少し情報を集めないと演じるのは難しいぞ。
 
それに国王は、今は優しそうな顔してるけど腹黒で何考えてるのかわ
 
かったもんじ ゃない。 元々、利用するつもりで聖者を召喚したこと
 
には変わりないんだから、かえって子供のふりをしている方が警戒さ
 
れずに済む。〕
 
(そうだな、わかった…)
 
 



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